『月の手と媚薬』





「・・・炎山の手って『月の手』だよな〜。」

炎山の手を弄っていた熱斗がつぶやいた。


「『月の手』?」
「そ。いつも冷たいから。」
「?」

炎山の頭の上には、大きなはてなマークがでたままだ。
いつも手が冷たいのは自覚している。
冬場は気温に比例してさらに冷たくなって、指先だけ変温動物なんじゃないかと
思うこともあるほどだ。


・・・が、なんで月が出てくるのか?


「ほら、俺みたいにいつも温かい手のことを『太陽の手』、
反対に冷たい手のことを『月の手』っていうんだって。だから『月の手』。」


「ふーん。」

「炎山、チョコレート職人に向いてるかもよ。」
「何だソレは。」

チョコレートを作る人は、溶けるから手が冷たい方がいいんだって。
俺は温かいからパン職人かー、でもせっかくなら炎山と一緒に店やりたいよなー
と、熱斗は1人空想して喋っている。

思わず吹き出してしまった。
いくら温かい手がパンの発酵を助けるからパン屋向きだといっても、
将来就きそうも無い職業であれば、意味が無い。

「何が可笑しいんだよー」

ぷうと頬を膨らませて抗議している。



「・・・でも、ある意味チョコレート職人てのは当たってるよな・・・」


小さい声でつぶやいたつもりだったが、目の前の恋人の耳には
しっかり届いてしまったらしい。

「なんでだ?」
なんでもない、と返事をした熱斗の顔が、心なしか赤い。

ちょっと意地悪してみたくなる。

「ん?何でもないじゃなくて、ちゃんと言ってみろ、熱斗?」

顎を引き寄せ、わざと唇が触れないギリギリまで顔を近づけて覗き込む。
綺麗な紺碧の瞳にじっと見つめられると、もう抗えなくなる。
熱斗が降参とばかりに口を開く。




「・・・だって、チョコレートって・・・媚薬だろ?」



その媚薬を作り出す手。
いや、炎山の手自体が媚薬なのかもしれない。

炎山は満足そうに微笑むと、そのまま熱斗の唇を貪ってベッドに沈めた。


甘く。
甘く。
熱に浮かされるように、溶けていく。




その通り、炎山のキスはさっき熱斗がバレンタインに送った、
苦くて甘い、ガナッシュの味がした。




(Happy Valentine!)



***************

バレンタインなので、チョコで甘甘炎熱目指してみましたー。
うんちくは、某サンシャイン新聞(笑)からの受け売りです。
チョコレートに唐辛子を加えたものは、昔、精力剤だったらしいですよ。
私も手が冷たいのでこれからチョコレート職人を目指して、炎山様と店を持つのが夢です。
(ダメだこの人)

***************